芽キャ^の

芽キャベツの二日酔いについて考えるすべを喪ってしまった私たち / 詩とTRPG / https://twitter.com/Wanazawawww

忘れ去られた(でもきっと誰かは覚えている)神はあまりにも優しく人に寄り添って

その神の名は もう忘れ去られたが 奇妙で呼び難い名前だったのは 確かだ
しかし 名前がわからないので もう二度と伝承を調べようもない

昭和の在野の研究家・待田誠道のレポート(1992年) によると
彼の神は 人間に 殺人教唆という 手法と 概念とを 齎したのだという

それは 複数の英雄譚の元に なったのかもしれないし
もしそんなことだと 幻滅かもしれないし
どうせそんなことだろうと思ったと 笑うしかないかもしれない

なあ それはいつも夜なんだ
ぼくはきみの後ろを追けていて 右か左から上ずった声でこう言うんだ

"手に持ったものを振り回したいんだろう
そいつが憎くて憎くて 馬鹿馬鹿しくてたまらなくて
親から子から 恋人も
構いやしねえ 誰も見てねえよ 誰が見てたって構わねえよ
壊して ぶち混ぜて そして
なあ! はやく はやくやれよ!"

なあ 信じてくれよ
ぼくは恨む事を憎しむ事を認め許すつもり だったのであって
きみに憎しみを持ってほしい とか
ぼくの代わりにきみだけでも恨みを果たしてほしい とか 思いもしなかったんだよ
今の今まで ぼくは ぼくがきみに 幸せになってほしいものとばかり
そうとばかり……
……

彼の神は絶望を謳うというが 歌のため絶望を願ったかどうかまではわからない 今はもう誰にも
でもきみが 殺してしまいたいと 聲もなく囁く度
大きく虚ろな霊(たましい)はどこかで和(やす)らぎ
そうすることが人々にどのような働きを齎すのか 現在の研究ではまだ解明されていないのだという

その神の名は もう忘れ去られたが
奇妙で呼び難い名前だったのは 確かだったはずだ
名前は忘れ去られた みんな忘れちまった だからもう二度と 伝承を調べようもない

そんな神がいたことを 誰も確かめようがない
それでも確かに 人の世に霊(たましい)はあまりにも優しく寄り添う
そしてその霊(たましい)の名を きみが覚えているのじゃないかと

最近ぼくは きみに訊きたくて仕方がないのだよ

(2018年1月)

(noteにて)